コテコテの推理小説「アイルランドの薔薇/石持浅海」
関連するタグ: アイルランドの薔薇 石持浅海 ミステリ 小説純粋なる推理小説である。このご時世、ここまでピュアな推理小説は逆に珍しい。舞台はアイルランドの宿屋。殺されたのは装勢力の副議長。容疑者は8人。犯人はいったい誰なのか?
石持浅海が得意とする「限定空間」を舞台とした「警官が関与しない」ミステリである。副議長と一緒にいた武装勢力のメンバーが警察への連絡を禁じたため、警察の介入がない。8人の容疑者は自力で犯人を探すことになる。
すごいのは「ひざが砕かれて窓から捨てられた死体」をもちだして、その死の状況について延々と議論しているところ。よくもまー、そこまで話せるものだ。このあたりの論理の展開は石持浅海のステキなところ。
むろん、それだけでは話が持たない。武装勢力たちと一般客の緊張を物語に仕込み、さらに「殺し屋」の存在が話を複雑にする。
論理の展開に加えて、石持浅海といえば奇抜な状況設定。月の扉ではハイジャック。水の迷宮では水族館脅迫。今回は「アイルランドの武装勢力と殺し屋」である。
殺された副議長はもともと「数日後には殺される運命」だった。ただ普通に殺すと問題があるため、事故死に見せかける必要がある。それを請け負ったのが「殺し屋」。殺し屋は事故死に見せかけて対象を殺すプロだった。
にもかかわらず、副議長は明らかに他殺の形で殺された。犯人は殺し屋なのだろうか。殺し屋がしくじったのだろうか。
「あんたがやったんじゃないのか? あんたが失敗したってことはないのか」
「私はあんな不細工な殺しかたはしませんよ」
「証拠は?」
「ここであなたを殺して、病死と判断されたら、それが証拠になりますか?」
殺し屋と武装勢力の存在がそれほど危険なものではないため、緊迫感に欠けていたのが残念である。彼らをもう少し危険因子として扱っていれば、また違ったビートを加えられたかもしれない。そこがもったいない。
そんなわけで、やっぱり作品的には地味なのよね。普通のミステリ小説。あまりにも普通すぎる――正当すぎる出来。なにかしらプラスアルファが欲しいところ。枠外にでることなく優等生的に終わったのが残念。
別にトリックらしきものはなく、ただただ不審な死の謎を解き明かす。その論理のやりとりが面白く、そこを楽しむ作品。ミステリ好きなら楽しめるだろう。
<<関連エントリ>>
月の迷宮
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