ネガティブ爆裂「失はれる物語/乙一」
関連するタグ: 失はれる物語 乙一 ラノベ ライトノベル 小説短編の名手にしてネガティブ系の旗手。乙一の短編集である。相変わらず奇妙な作品が多い。独特な「空気の違う」世界観を使い、孤独の悲しさを描き、孤独を乗り越える優しさを表現する乙一テイストは健在。私的には楽しめた。好きな作品を順にあげていこう。
1.手を握る泥棒の物語
2.しあわせは子猫のかたち
3.Callingu You
4.傷
5.マリアの指
6.失はれる物語
楽しめた順番はこのとおり。
「手を握る泥棒の物語」と「しあわせは子猫のかたち」は風変わりなカップルもの。「泥棒」は穴のなかから互いの手をつかみあい、逃げ出せなくなった泥棒の男と被害者の女の会話を描く。お互いに牽制しあいながら、少しずつ内面に踏み込む展開は見事。
「私はお母さんが好きだから、いつも期待に添いたいと思っていたの。そうして喜んでくれるのが嬉しかったから。でも最近は、うまくいえないけど、そうじゃないというか……」
「俺は、親に反対されても従わなかった」
彼女に声をかける。
「それで、人生はうまくいってる?」
「うまくいっていれば、今ごろおまえの手を握っていない」
「子猫」のほうは幽霊の女と同居する男の話である。幽霊はしゃべらないし姿も見せない。ただ家の物を動かすだけである。お茶を淹れてくれたりもする。彼らの静謐な暮らしは読んでいて実にすばらしい。口やかましく愛を唱えずとも緩やかなる信頼で結ばれた二人の生活が心地よい。
確かに、世の中、絶望したくなるようなことはたくさんある。自分に目や耳がくっついていなければ、どんなにいいだろうと思ったこともある。
でも、泣きたくなるくらいに綺麗なものだって、たくさん、この世にはあった。胸が締めつけられるくらいすばらしいものを、わたしは見てきた。この世界が存在し、少しでも関わりあいになれたことを感謝した。カメラを構え、シャッターを切る時、いつもそう感じていた。わたしは殺されたけど、この世界が好きだよ。どうしようないくらい、愛している。だからきみに、この世界を嫌いになってほしくない。
今ココで、きみに言いたい。同封した写真を見て。きみはいい顔している。際限なく広がるこの美しい世界の、君だってその一部なんだ。わたしが心から好きになったものの一つじゃないか。
幽霊が去るときに、ネガティブな主人公に残していった最初で最後の手紙は名文。乙一がすべての作品で描こうとしているテーゼを完璧に語っている。「この世界は生きにくい。それでも世界は美しい」。
これら2つの作品の系譜は名作「暗いところで待ち合わせ」に連なるものだろう。これらが楽しめるのならそちらもオススメする。
「Calling You」は本作品の最初に位置する話。笑ったのが冒頭からネガティブ全開であること。
携帯電話を持っていない事実は、そのまま友達がいないことを現しているようで、ずっと気にしていた。人と上手く喋れないことが不健全であるように感じているし、友人を作れない自分はできそこないのように思えていた。
どこまでネガティブなんだよw これが乙一らしさといえば乙一らしさである。お話としては、ケータイ電話をもたない孤独な女子高生が脳内にケータイ電話を生み出してしまい、同じ孤独な少年の脳内ケータイと連絡する。
悪くはないが「すべての出来事を知る人物」が「最後に起こる決定的な悲劇」を回避するように努力しないのが納得がいかず減点。
他の3作はあまり好きではないかな。「傷」は「他人の傷を自分の体に移動できる能力を持つ」少年の話。なかなか深刻すぎる展開で気が詰まる。「マリアの指」は女性マリアの死の真相を調べる。乙一の著書「GOTH」の系譜の作品で実にミステリ度が高い。しかし、それほど面白いとは思わない。表題の「失はれる物語」は事故で片腕の皮膚感覚以外のすべてを失った男と家族の話。鬱作品である。鬱なときに読むと自殺を考えたくなるのは間違いない。
1−3はありだが4−6はなし。そんな短編集。あ、とりあげなかったけど「ボクの賢いパンツくん」は番外ね。なんつーの? 最高? みたいな? あの数ページで笑わせつつ最後にホロリと落とすのは乙一だなー、と感心する。
「パンツくん!」
「やあ! パンツくんだ! でも今日でお別れにしよう!」
「なんで!」
「きみは成長した。もうボクの大きさでは入りきらないよ。それに穴も開いている」
「そんなこと言うなよ!」
雨の中、ボクはパンツくんを握りしめて叫んだ。
「きみは成長していく。でもボクはこのままだ。きみもいつか、トランクスを穿いたりするんだろうね。ボクは他のゴミといっしょに消えるよ。きみのことを思い続けるからね」
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